【完】TEARS−ティアーズ−
「郁君、遅刻とはいい度胸だなぁ」
「うるせー」
朝練が終わって、教室の自分の席で眠る体勢の俺を悪友……
じゃなく、部活仲間の正宗(マサムネ)が茶化してきた。
そう、あの後。
必死に走ったのも空しく、朝練に遅刻して。
時間に厳しい監督からは怒られるし。
宮坂はあからさまに無視するし。
仲間にはからかわれるし。
んっと、ツイてねー。
不貞腐れた俺は、寝ることにした。
遅刻の罰としてトラック10周まで追加されて、朝からすっげー疲れたし。
宮坂のことで何か疲れたし。
「なに郁、寝るの?」
「おー」
「郁寝たらツマんないじゃんー」
『勉強しろよ、正宗』って言葉は眠すぎて言うのもダルイ。
ツマラナイ授業をする担任の声。
カリカリと響くシャーペンの音。
たまにめくられる教科書の音。
それが、まるで子守唄のように聞こえて。
どんどん襲われる睡魔の中。
ふと、朝の変な女を思い出した。
あの女。
宮坂との話聞いてたよなぁ。
もしあの女が噂好きな奴だったら面倒臭ぇなぁ。
宮坂はやたらとプライドが高いから、そんな噂たてば怒るだろうし。
俺に出来る事といえば、あの女が噂好きじゃない事を祈るだけ。
それにしても面倒臭ぇとこ見られたなぁ。