【完】TEARS−ティアーズ−


「着いたわよ。乃亜おりて」



ボーッとしていたあたしは、言われる通りに車から降りた。

目の前には、お誕生日とか、お祝いの時とかに食べに来る高級ホテル。


パパがいないのに、こんなところいいのかなぁ。



「じゃあ、先に上がっておいてね」

「え? ママは?」

「あ、えーっと、少し用事があるの」

「あたし待ってるよ?」

「いいのよ。待ち合わせの時間もあるし。ほら急いで」



背中を押されるようにして乗ったエレベーター。


どんどん上がるエレベーターの中で、ふと疑問に思った。


待ち合わせの時間って何だろ?

予約の時間の間違いかなぁ?

あれ?

そもそも、あたし何階かも聞いてないし。

お店の名前だって知らないよ。


もうママったら、何にも言わないでエレベーターに乗せるだなんて信じらんないよ。


えっと……何階で止まるのかな?

エレベーターのボタンを見た、その時だった。


--チンッ
と軽やかな音と共に止まったエレベーター。
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