【完】TEARS−ティアーズ−


あたしの目に映ったのは、郁君の姿だった。



向こうの方から走ってくる郁君はジャージ姿で。

お休みの日だからランニングでもしているのかな?

そんな呑気な事を思ってしまう、あたしはやっぱりバカで。


どんどん近付いて来る郁君の姿から、目を逸らせなくなってしまう。


郁君が、ふと視線を上げた瞬間。


周りの雑音が消えた気がした。


あたしに気付いた郁君は目を見開いて、少し驚いた顔をした。

だけど、走る足を止める事なく、あたし達の方へと近付いて来る。



「乃亜ちゃん?」

「えっ、あ、はい?」



名前を呼ばれて、慌てて目線を高峰さんへと戻した。


不思議そうに首を傾げる高峰さんは、もう一度ハッキリと。



「乃亜ちゃんのこと好きだよ。
だから僕と付き合って欲しいんだ」



その言葉と同時に、郁君があたし達の隣を走り過ぎた。
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