【完】TEARS−ティアーズ−


それは一瞬の事で。


風のように去ってしまった郁君に、胸が締め付けられて苦しくなった。


郁君の耳にはヘッドホンが付いていたから音楽を聴いてたと思う。

だから高峰さんの声は聞こえてないと思うけど。


声すらかけてはくれない、その事に。

目すら合わせてくれない、その事に。


あたしは泣いてしまいそうになった。


ただ、普通に『篠原』って名前を呼んでくれなかった事が辛くて。

気付いているのに、まるで知らない人の隣を通るように目を合わせてくれなかった事が哀しくて。


苦しくて、痛くて、哀しくて、辛くて。

色んな感情が入り混じって。



そんな郁君の態度に、胸が潰れてしまうんじゃないかって思った。



別に何かを望んでたわけじゃないんだ。

告白して、付き合いたい! そこまで考えていたわけじゃない。

ただ気持ちが溢れ出して、声にしただけ。

だけど振られるっていうのは、こういう事だったのかな?

気まずくなって、喋る事すら難しくなる。

そうなるのは仕方ない事なの?


こんな事になるんだったら、溢れ出した気持ちを声にするんじゃなかった。


ずっと胸の奥に閉じ込めておけばよかった。


恋になんて気づくんじゃなかった。


恋なんてするんじゃなかった。


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