【完】TEARS−ティアーズ−
「乃亜の事があってから、仕事無理してたもんね」
乃亜ちゃんの名前を出されてドキリとした。
あの日以来、南さんは乃亜ちゃんの名前を出したことがなかったから。
確かに、乃亜ちゃんの事があってからの僕はどうも駄目で。
仕事をしていたら無駄な事を考えなくて済む。
そう思って、めちゃくちゃなシフトを組んで、無理してしまっていた。
それがあだとなったのか、こうして体調を崩してしまったのは事実。
「まだ辛い?」
そう聞かれて。
正直、わからなかった。
というか、考えてなかった。
もちろん、はじめは乃亜ちゃんの事が原因で無茶なシフトを組んでしまったけど。
最近は、自分が組んでしまったシフトだからこなしていただけで。
別に乃亜ちゃんの事を考えるから、とかそういう理由ではなかったような気がする。
「忘れてました」
「え?」
「乃亜ちゃんの事を考える事を忘れてたんです」
「どういう意味?」
「今、南さんに言われて。そういえば無茶したはじめの原因って、乃亜ちゃんだったなぁーって思い出したんです」
「え? なにそれ?」
笑みを零した南さんに、今思っていることを素直に答える。
「仕事が忙しかったのもありましたけど。
休みの日とかは南さんと遊んでいたんで、そんな事を思い出す事がなかったなぁって」
そう言うと、南さんは顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。