【完】TEARS−ティアーズ−
「郁ー?
なに変な顔してんの? 行くよー」
「あぁ?」
さっきまで纏わり付いていた正宗は、いつの間にか俺の数歩前を歩いてて。
偉そうに俺に指示してくる。
「お前、さっきまで焦ってたくせに随分余裕じゃん?」
大股で歩いた俺は正宗に近寄り、頭をグリグリと締め付けてやる。
「いたた……っ!
郁痛いってばー」
「あぁ?
ナイ頭でも痛いのかよ」
「ナ、ナイ頭じゃないよー。
てか郁、本当に痛いってばー」
頭を抑え痛がる正宗を放置して、俺は歩き出した。
「正宗と郁っていつもこんな感じなの?」
なんて、俺と正宗を見ながら笑って言う南。
「そうなんだよー。
いつも郁に苛められてるの!」
なんて、調子にのって言う正宗。
「ああ? 誰がいつ苛めたって?」
「う、嘘だよっ。
冗談に決まってんじゃん」
それを見て、また『おっかしー』なんてクスクスと笑う、南と篠原。
篠原は、さっきみたいな作り笑顔じゃなくて。
本当に楽しそうに笑ってて。
なんだよ、ちゃんと笑えんじゃん。
俺は、フッと零れた自分の笑みに気づき、口元を手で覆った。