【完】TEARS−ティアーズ−


「郁ー?
なに変な顔してんの? 行くよー」

「あぁ?」



さっきまで纏わり付いていた正宗は、いつの間にか俺の数歩前を歩いてて。

偉そうに俺に指示してくる。



「お前、さっきまで焦ってたくせに随分余裕じゃん?」



大股で歩いた俺は正宗に近寄り、頭をグリグリと締め付けてやる。



「いたた……っ!
郁痛いってばー」

「あぁ?
ナイ頭でも痛いのかよ」

「ナ、ナイ頭じゃないよー。
てか郁、本当に痛いってばー」



頭を抑え痛がる正宗を放置して、俺は歩き出した。



「正宗と郁っていつもこんな感じなの?」



なんて、俺と正宗を見ながら笑って言う南。



「そうなんだよー。
いつも郁に苛められてるの!」



なんて、調子にのって言う正宗。



「ああ? 誰がいつ苛めたって?」

「う、嘘だよっ。
冗談に決まってんじゃん」



それを見て、また『おっかしー』なんてクスクスと笑う、南と篠原。


篠原は、さっきみたいな作り笑顔じゃなくて。

本当に楽しそうに笑ってて。


なんだよ、ちゃんと笑えんじゃん。


俺は、フッと零れた自分の笑みに気づき、口元を手で覆った。
< 51 / 371 >

この作品をシェア

pagetop