《短編》砂山のトンネル
俺が何でそんなことを聞くのかわからないのか、不思議そうな表情のまま言った。


「ないな。」

「わぉ、かっこい(笑)」


その答えに俺がおどけてそう言うと、少し声のトーンを下げていった。


「お前は、ないのか?」


今までさんざん文句を言ったり、いろんなモノを投げ出したりしてきたからだろう、兄貴が聞いてきた。


「俺のは挫折って言わないんだと。‥‥ミキに言われた。」


ミキが言った言葉をそのまま兄貴に教えてやると、兄貴は笑った。


「ミキらしいな。あいつは頑張り屋だから…それでもミキは挫折って言葉は使わないだろうな。」


兄貴はミキがモデルを諦めるつもりなのを知らない。だからそう言ったんだろうけど…

その見解には、俺も賛成だった。ミキはきっと挫折したなんて言わない。


あいつは絶対夢を掴むって…そう信じてる。



「俺さ、もう一度夢見てみようと思うんだ。」

「そうか。」


兄貴の顔はとても穏やかで、俺がそう言うのを待っていたかの様だった。


「金貯めて、学校入って‥‥美容師目指すよ。」
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