アイシテル 街を仕切る男×傷を負った少女

俺の…



猛は暫くの間、入院することになったらしい。



薬のせいで、私に何をしたかも、伸也さんに殴られたことも、まったく覚えていないと、こたぁは笑って言っていた。



伸也さんはすべてを猛に話すべきだと言ったけど、私は反対した。



猛の意思でないならば、なかったことにしたい。



猛のためを思っていたわけではなく、自分自身が忘れたかったんだと思う。



「そういえばお前、何で鏡割ってんだ?」



「ちょっと、ぶつかっちゃって」



「なわけねぇだろ。家中の鏡にぶつかったのか?」



「そうみたいですね」



これ以上、詮索されると怒られるような気がして、こっそりと部屋を出ようとした。




「亜美、ここに座れ」



伸也さんは私が名前で呼ばれると、断れないことを知っているんだろうか。



名前を呼ばれただけで、こんなにも喜んでしまう私の気持ちを知っているんだろうか。


< 109 / 688 >

この作品をシェア

pagetop