アイシテル 街を仕切る男×傷を負った少女
俺の…
猛は暫くの間、入院することになったらしい。
薬のせいで、私に何をしたかも、伸也さんに殴られたことも、まったく覚えていないと、こたぁは笑って言っていた。
伸也さんはすべてを猛に話すべきだと言ったけど、私は反対した。
猛の意思でないならば、なかったことにしたい。
猛のためを思っていたわけではなく、自分自身が忘れたかったんだと思う。
「そういえばお前、何で鏡割ってんだ?」
「ちょっと、ぶつかっちゃって」
「なわけねぇだろ。家中の鏡にぶつかったのか?」
「そうみたいですね」
これ以上、詮索されると怒られるような気がして、こっそりと部屋を出ようとした。
「亜美、ここに座れ」
伸也さんは私が名前で呼ばれると、断れないことを知っているんだろうか。
名前を呼ばれただけで、こんなにも喜んでしまう私の気持ちを知っているんだろうか。