アイシテル 街を仕切る男×傷を負った少女
邪魔しちゃ悪いと思って、終わるまで廊下の椅子に座って待っていた。
ここに来てから30分以上がたった頃、車椅子に乗せられて、出てきたお婆さんは私に気づいていない。
額の汗を一生懸命タオルで拭いている。
「お婆さん」
躊躇いながら声をかけてみる。
「あら、何してるの?」
疲れているはずなのに、そう思えないような笑顔。
「大丈夫?」
「やっぱり喋れるんじゃないの」
「うん。手術成功したから会いに来た」
「約束覚えててくれたのね」
「うん」
「私は、もう少しここにいなくちゃいけないから、退院したら連絡するわ」
「わかった」
携帯電話を取り出して、番号を紙に書こうと思ったけどペンがない。
「準備が悪いわね」って笑うお婆さん。
その横から、ペンを差し出された。
見上げると、伸也さん。
「ありがとう」
「あぁ」
「いつでも出るから」
そう言って紙を渡すと、
「退院するのが楽しみね」
って車椅子を押してもらい病室へ戻っていった。