アイシテル 街を仕切る男×傷を負った少女
たまさんとの電話を切った後、伸也さんのいる居間へと足を進めた。
ドアを開けると、伸也さんはビールを片手にボーっとソファーに座っていた。
ゆっくりと私に視線を向けて
「さっきは言いすぎたな」
と言って微笑んだ伸也さんに胸がたまらなく締め付けられる。
「私こそ、最後まで話聞かなくて」
素直に謝れない私は小さな声でそう言うと、伸也さんは私に向かって手招きした。
私はその手に従い伸也さんの横へと座る。
「俺は爺さんの気持ちを考えちまったんだ」
「たまさんの旦那さんの気持ち?」
「お前の言いたいことはわかる。婆さんのやっていることは凄いことだ。誰でも出来ることじゃねぇ。でも、いくらボケてても爺さんは男だ。好きな女に、そんなことさせてまで面倒見てもらいたいなんて思ってないと思ったんだ」
「うん」
「男は好きな女のまでは、いつまでもかっこよくいたいもんだ」
「伸也さんが何であんなこと言ったかはわかった。でも、お爺さんの気持ちは良くわからない」
「お前にはわからなくていいことだ」
「私はたまさんの気持ちに感動した。愛って言葉が似合うと始めて思った。ただそれを言いたかっただけ」
「あぁ、わかってる」
愛は名前ばかりが大きくなりすぎて、人間に期待を持たせ、絶望させ、狂ってしまうまで振り回す。
私は世間が語る愛など、この世の中に存在しないものだと思っていた。
でも、たまさんに出会って、もしかしたら存在するものなのかもしれないと思ったんだ。