ONE MUSIC
「あっ、始まった始まった、イェーイ☆」
いつ決まったのか、私は名前も知らないこの男とデュエットすることになったらしい。
腕を引っ張られ、席から立たされ、マイクを向けられた。
「会いたかった~、会いたかった~、会いたかった~、YES!」
……いや、別に会いたくねぇし。
そう思うのは私だけらしく、周りはタンバリンやカスタネットを持って勝手に盛り上げていた。
……普通はマラカスだろ。
と思ったは思ったけど、言うのは止めておいた。
「南、歌おうぜ!……いたかった~YES!」
歌いながらご親切に声を掛けてくれたのはいいけれど、中途半端に入ってしまったがために「痛かった」にしか聞こえない。
私の腕を掴んで上に振り上げるその人が、半端なく気持ち悪かった。
あぁ、もうヲタクにしか見えない。
自分で主に歌いながら、時たま私にマイクを向けているヲタク男。
何で私の名前を知ってるんだろう。
……まぁ、いい。
そんなことよりどんなことより、ヲタク男の音痴ぶりにはもう限界だった。
『貸して』
「…かった~、YE―え?」
『マイク貸して』
その声は外野の音に掻き消されつつも、ウザ過ぎる程至近距離に居たヲタク男には聞こえたらしい。
子育てに成功した親の様な表情を浮かべ、私にマイクを渡してくれた。