ONE MUSIC
私がマイクを受け取ったことで、周りがオオォォっと一気に盛り上がる。
あぁ、これから歌うってのに、静かにできないんだろうか。
周りは気にしない事にして、歌詞が表示されている画面を見る。
歌は間奏を終え、終盤の“ラララ~”に入るところだった。
『ラーラーラーラーラー、ラーラーラーラーラーラーラ――――…』
どうせなら“好きならば好きだと言おう”の部分を歌いたかった。
もうちょっと早くマイク奪っときゃよかったと後悔しながら、目を瞑る。
あぁ、いいね、高音。
テスト3日前から歌禁止令を出されていたので、伴奏と共に歌うのは8日ぶり。
最高に気持ち良い、大好きな感覚を感じながら、スゥっと息を吸う。
そしてラストの“会いたかった”連発部分に差し掛かり、AKB風でなく自分流に声を滑らせる。
目は閉じたまま、声と伴奏と空気だけを感じる瞬間。
1人違う空間にいるかのような心地よさを堪能し、あっという間に終わった曲を全て聞いた後、目をそっと開いた。
「う…上手すぎる……」
「何…、プロですか……?」
「や……やべぇ」
さっきまで人が歌ってる最中にギャーギャー言ってた人達。
このカラオケボックスの個室に居る全員が、見事に絶句していた。
『歌は、』
私は言葉を発す。
『遊びじゃないよ』
前視線を浴びているのを良いことに。