春は来ないと、彼が言った。
「いらっしゃいませー」
聞き飽きたそのセリフのトーンは、いつもと変わらない。
でもきっと、恢のことだから店員の顔や声なんて一々覚えてないんだろうなぁ。
ほぼ毎日、学校帰りに来てるけど。
心の中で笑みを零し、鞄の中で埋もれている財布を探し始めた。
「あんまんと肉まんください」
「かしこまりました」
…あれ、なかなか財布が見つからない。
会計が近いことに焦りながら1人で苦戦していると、思い出したように恢が言った。
「あと、フランクフルト1本追加で」