春は来ないと、彼が言った。
彼がいない日常
*****



―――朝がやってきた。






閉まったカーテンの隙間から零れる僅かな朝日に目を細め、意識を無理やり覚醒させた。


薄暗がりの中、枕元にぽんぽん手を這わす。

こつんと掌に収まった無機物を掴み、顔の前まで持ってくる。


花の形を模した小さな目覚まし時計の針は、5時17分を指していた。



…これは去年の誕生日に恢がくれたんだよね。



霞がかった脳でそう処理し、もぞもぞと寝返りを打つ。


まだ早いからもう一眠りしようとしたところで、ふと違和感を覚えた。

< 100 / 243 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop