春は来ないと、彼が言った。
「恢と喧嘩したんだってさ」
―――右隣から、助け舟なのかよくわからないものが飛んできた。
ぎぎぎぎ…っと睦くんを見ると、有無を言わせない黒い笑顔を浮かべていた。
ひいいいい!!
青褪めているわたしに気付くはずもない妃ちゃんが、睦くんに問い掛けた。
「睦兄、なにか知ってるの?」
妃ちゃんはちょっと不機嫌そうに頬を膨らませている。
本人は気付いていないけど、これは妃ちゃんがよくやる癖だ。
この顔をしているときはいつもの5割増しで可愛い。