春は来ないと、彼が言った。
予想外の攻撃の所為で恢を直視することができなくて、わたしはさらに赤みが増した顔をぱっと背けた。
もうどこを見ていれば良いのかわからなくなり、じっとタイルの床を見つめる。
「(…変に思われた、かも)」
急に不安が胸をよぎり、再びそろそろと恢を見た。
しかし恢はちょうど会計を済ませている途中で、わたしと目が合うことはなかった。
店員は見かけによらない早さでてきぱきと商品をビニール袋に詰めている。
………あ、財布。
はた、と気付いたときには全てが手遅れだった。