春は来ないと、彼が言った。
わたしの所為なの?
わたしが、そんな表情をさせているの?
「…睦くん、」
気付いたときには、わたしの右手が睦くんの頬に添えられていた。
無意識だった。
まるで、目の前にいるのが恢のような気がして。
まるで、ふわっと消えてしまいそうなほど笑顔が儚くて。
わたしは思わず、手を伸ばしてしまった。
「………本当に優しいね、椛ちゃん」
力なく呟いた睦くんは、流れるような動きでわたしの手を握った。