春は来ないと、彼が言った。
「…椛ちゃん、恢となにがあったのか教えてくれる?」
するりと手は解けた。
あまりの呆気なさに声すら出ないほど、簡単に。
解放された自分の右手に何気なく目をやる。
じっとりと掌が汗ばんでいるのは、暑さの所為じゃない。
ましてや睦くんが相手だからだとかそんな理由でもない。
わかってる。
わかってる。
わかってる、のに。
なにかの所為にしたくてしょうがないのは、わたしが弱いから?