春は来ないと、彼が言った。


ねえ、恢。


わたし、あのとき……どんな顔してた?



「恢が?…それとも、椛ちゃんが?」



また、わたしの思考を見透かしたように睦くんが言った。

怖くなる。

睦くんにはなんでもわかっちゃうんじゃないかって。


そんなはずないのに。

隠し事をするのが、怖い。



「……わたし……泣い…てる…?」



ぽたり、ぽたり。


睦くんの優しさが、傷口に滲んで痛い。


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