春は来ないと、彼が言った。
決まってこういうとき、わたしたちは夕方になるまで恢の家で過ごす。
理由は単に、ここから歩いて10分もかからないからだ。
やましいことなんて、なにひとつない。
「冷めないうちに食うか」
恢のもっともらしい提案により、わたしたちはあんまんと肉まんを袋から取り出した。
空気に触れただけで雪のように白い蒸気がもわっと上がり、そのまま上昇したそれが頬をしっとりと濡らす。
肉まんを包んでいる指先はつい手放してしまいたくなるほど熱く、
何度も右手から左手、左手から右手へとぽんぽん投げ渡す。
そんなわたしを見ていた恢はぷっと吹き出し、わたしの肉まんをそっと左手で掴んだ。