春は来ないと、彼が言った。


何気なくポケットに手を入れると、ピンクの小さな紙が掌中に収まった。


……さくらの形をした、和紙。


色々な形をした想いが胸の内でぐるぐる廻る。

逃げ場を失くしたように、ふらふらと心の中を彷徨う。


全ての感情を無に帰せるなら良かったのに。

全部、無かったことにできれば良かったのに。


そうしたら。


たぶん、誰も、傷付くことは無かったのに。

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