春は来ないと、彼が言った。




―――願い事を、棄てるから。




和紙を両手で持ち、勢いよく引き裂いた。


真っ二つに裂けたそれを、何度も何度も小さく千切る。

床にハラハラと桜が舞うように和紙の欠片が落ちた。


…両想いになれますように、か。



「あははっ……ありえないのに…ね…」



無残にも破り棄てられたその残滓は、まるでわたしの想いのようだった。
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