春は来ないと、彼が言った。


わたしの、未練にまみれた想いのように。



「……だいすき、だったよ」



無意識に指先がなぞるのは、恢に付けられた赤い痕。

首筋に鮮明に残る赤い刻印は、わたしを昨日の記憶に縛り付けるようだった。


まるで、忘れるなんて許さないと。

そう言っている気がして。


恢がくれた熱は、まだ、この身体に残ってる。



「…暑い…熱い……あつい…」





―――熱が、引かない。


< 153 / 243 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop