春は来ないと、彼が言った。
ガラッ
「椛ちゃん、待たせてごめんね!帰ろー」
「…あ、うん!」
わたしの様子を見て、睦くんは不思議そうに首を傾げた。
…無理もない、か。
「箒なんて持って……教室の掃除でもしてたの?」
笑いながら近付いてくる睦くんに、曖昧な言葉を返した。
……掃除、には違いないけど。
「ちょっと汚れてたから気になったの。ごめんね、もう終わったから」
ゴミを取り終わったちりとりを掲げて見せると、睦くんはどこか安心したように笑顔を浮かべた。