春は来ないと、彼が言った。


そのままゴミ箱にまっすぐ向かい、ちりとりを傾けたとき。


このままじゃだめ。


…どこかから、声が聞こえた気がした。



「…………っ、」



無意識というより、半ば反射的だった。


捨てる直前だったゴミの中から一欠片、花びらを拾い上げた。

わたしが小さく千切ってしまったそれ。

…なんとなく、持っていたくて。

< 155 / 243 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop