春は来ないと、彼が言った。
気がした、という根拠は恢の表情が急に強張ったように見えたから。
…ど、どうかしたのかな…。
恢は何事もなかったように別の話を始めたため、わたしも特に気に留めることなくもぐもぐとあんまんを食べ続けた。
それから数分歩くと、恢の家に到着した。
相変わらずいつ見ても綺麗な豪邸だなぁ…。
「椛、来いよ」
ぼさっとしていたのがいけなかったのか、恢にグイッと腕を引っ張られた。
軽くバランスを崩しつつもそのまま腕を引かれ、いつものように家にお邪魔させてもらった。
わたし専用になってしまっているうさぎのスリッパを履き、もうすっかり板に付いた様子で恢の後に続き2階に上がる。