春は来ないと、彼が言った。
ちょっと前まではうだるような暑さの夏だったのになぁ。
うーん…と、灰色で塗り固められた空を仰ぎ見る。
…当たり前のように、入道雲は見当たらない。
ほんの1ヶ月前なのに、夏が来たことがひどく昔のことのように思えた。
「ほんとさみぃな…。積雪っつーか、今回の冬は2週間で終わるんじゃなかったのかよ。やっぱり“季節予報”は外れるもんなんだなぁ」
隣で同じように白い溜息を零している男は、わたしと同様に制服のブレザーを身に纏っている。
それもそのはず、つい先程まで一緒に授業を受けていたのだから。
凄まじい積雪のため午前中で学校が終わり、わたしたちはのんびりと帰路に着いていた。