春は来ないと、彼が言った。
…顔に全身の熱が集まってる、みたい。
恢に見られていないことを確認してから、そっと掌を両頬に押し付けた。
かじかむほどに冷えきり真っ赤になった指先が、じんわりと解凍されていく。
……なに、どきどき、してるの。
まるで初めて恢の家に来たときのような高揚感と緊張感に襲われ、わたしはこっそりと溜息を吐いた。
「ほら、食べたかったやつ」
にやっと意地悪な笑いを浮かべたままの恢から、すっとフランクフルトが差し出された。
包んである紙が蒸気の所為でくたっとしている。
「あ、あのねぇっ…!」
なんだか食い意地が張ってると言われてる気がして、その言葉に噛み付いた。