春は来ないと、彼が言った。
顔を赤くして肩を怒らせるわたしなんてそっちのけで。
恢はだいぶ温くなった缶コーヒーのプルタブをカコンッと引いた。
むくれるわたしを横目で見て、缶を傾けながら目だけで笑っている。
「(…恢って何気にカッコいいところがムカつく…)」
悪口になっていない言葉を心の中でそっと呟き、はぁ…と溜息を吐いた。
眉間に皺を寄せたまま、思った以上に冷めてしまったフランクフルトを黙って咀嚼する。
……おいしい…。
恢がわたしのために買ってくれたんだと思うと、いつもの20倍くらい美味しく感じた。
…わたしってほんと、現金だなぁ。