春は来ないと、彼が言った。
「椛、美味いか?」
………ずるい。
そうやって、バカみたいに、花が咲いたみたいに笑うなんて。
無自覚なのか知らないけど、わたしの頭を優しく撫でるなんて。
他の誰にも見せたくない、なんて思うくらい柔らかく目元を緩めるなんて。
かっこよすぎるよ、ばか。
「……すっごく、美味しい」
わたしにはこの一言を言うのが、今できる精一杯だった。
その後は、好きなアーティストの曲を聴きながら2人で買ったばかりのお菓子を食べ尽くした。
椛、また太るぞ。
なんて聞き飽きた厭味は、さらっと無視して。
こんな毎日がずっと続くんだって、わたしは、疑いもしなかったの。