春は来ないと、彼が言った。
…次の瞬間、ぐっと強く肩を引き寄せられたのを感じた。
鉛直下向きにはたらく重力に逆らい、身体全体が右側にぐんと傾く。
さっきまで浮いていた足はしっかりと床に着いていて、わたしは恐る恐る目を開けた。
「びっくりしたー…!」
声があまりにも近いところから聞こえて、弾かれるように勢いよく顔を上げる。
それこそ目と鼻の先に、言わずと整った睦くんの顔があった。
ああ、わたしを抱き留めてくれたんだ…。
…でもそんな安堵感は、この体勢によって一気に打ち消された。
「ご、ごめんなさいーっ!!!!」