春は来ないと、彼が言った。
ざく、ざく、ざく、ざく。
子供の声や鳥の羽ばたく音さえしない、まさに閑静な住宅街を2人で歩く。
一応言っておくけど、付き合ってるわけじゃない。
わたしと恢(かい)はただの友達。
他の人よりは、多分、ずっとずっと仲が良いんだろうけど。
「ダメ、寒すぎて我慢できない!ねぇ、恢、肉まん買って帰ろうよ」
口を尖らせて隣を見上げると、恢はにっと口端を吊り上げた。
言わなくてもわかる。
恢も最初からそのつもりだったってこと。
「賛成っ!んじゃ、俺はあんまん買うから。椛(はな)は肉まんな?」
…恢はあんまんより、肉まんの方が好きなのに。