春は来ないと、彼が言った。
「書いて。それで自分で持ってるの。なにお願いしたか、ちゃんとわかるように」
妃ちゃんらしくない提案に瞠目したけど、願ってもないことだった。
…ありがとう、妃ちゃん。
恢や藍くんは嫌がるかと思ったけど、意外にも乗り気で驚いた。
睦くんはいつもと変わらないへらっとした笑みのまま、ペンを片手に唸っている。
「…っし、書けた」
さらに意外なことに、恢が誰よりも早く書き終わった。
満足そうに紙を見つめている様子を横目に見ながら、わたしの指は情けないことに震えていた。