春は来ないと、彼が言った。
……言葉にするのって、こんなに緊張するんだ。
本人に伝えるわけじゃないのに。
なんでこんなに、どきどき、してるんだろ。
「終わった」
「僕も」
「オレも書けたよー」
わ、わたしだけ書けてない!
誰かに見られてしまうんじゃないかという危惧を抱きながら、何度も深呼吸をする。
…ただの、お願い事だもん。
そんなに深く考えなくたって、別に、失恋するわけじゃないし。
叶ったら良いなってくらいの気持ちで、大丈夫だよね。
「…わたしも書けたよ」
彼への想いを―――桜の花に、来たる春に、そっと託した。
がたがたに震えた、ぶさいくな文字で。