春は来ないと、彼が言った。
…あ、そういえば。
「今でも覚えてるんだけどね、5回前の秋のときかな。予報より3日くらい秋が短かったから、栗と焼き芋の売れ残りが安売りしてて。安く買えてラッキーなんだけど、次が夏だったから買えなかったの…」
やっぱりもったいないことしたよねぇ…。
露骨に後悔の色を顔に出すと、恢は笑いながらわたしを宥めた。
「次に来た秋の終わりに買えば良いんだよ。…ああ、確かそんときって予報より10日早く夏が終わったんじゃなかったか?」
恢が扉を開けたまま待っててくれたから、わたしは早足で店内に入った。
惜しげもなく暖房がガンガンにかかっていて、一生ここから出られないくらい心地良い。