春は来ないと、彼が言った。
まるで彫刻かなにかのように綺麗な、それでいてどこか遠い微笑み。
柔和とはまた違う、いくらか冷笑に似たそれ。
無意識のうちに、ゆるく握っていただけの掌に力を込めていた。
「…睦…くん…」
刹那。
冷気に満ちた冬風が一陣、廊下を駆け抜けた。
爪先から頭へと寒気がぶわっと駆け上がり、ぶるりと身体が震える。
しかし、それを最後に風は吹かない。
ガタガタと鳴っていた窓も、すっかり静かになっていた。