春は来ないと、彼が言った。
乾いた瞳を見開いて、これでもかと睦くんを凝視した。
「これで両想い、なんちゃって」
そんなわたしを嘲笑うみたいに。
勝ち誇ったような笑みを浮かべたまま、睦くんは壁に背中を預けた。
かああああっ!
一気に熱が上昇した顔を隠すため、わたしは唇を噛んで俯いた。
睦くんと目が合わせられなくて、肢体はふるふると頼りなく震える。
……もう、だめ。
「り、睦くんのばかっ!!」
「椛ちゃん!」
身体を這い上がるぞくぞくとした感覚を振り払うように、わたしは走り出した。
向かう先は教室。
きっとわたしの帰りを待っててくれてるから。
どうしようもなく、無性に、恢に会いたかった。