春は来ないと、彼が言った。
「恢っ!!」
扉をばぁんっと勢いよく開けると、窓辺に凭れて恢が外を見ていた。
既にクラスメイトたちは帰宅したらしく、恢以外は誰もいない。
わたしに気付き、顔がゆっくりとこちらに向けられる。
ばくばくと高鳴る心臓を深呼吸で制し、なるべく自然な笑顔を装って近付いた。
夕方とはいえ、夏の日差しはさすが強い。
逆光でよく見えない恢の表情は、どこか落ち込んでいるように見えた。
「おかえり、椛」