春は来ないと、彼が言った。
わたしの見間違い、かな。
いつものように優しく笑いかけてくれた恢を見て、そう思い直した。
自分の机まで歩いていき、帰りの用意を始める。
とはいえ、今日配られたプリントと宿題のノートを鞄に押し込むだけ。
目線を合わせるように屈み、机の中を覗き込む。
「遅くなってごめんね。担任の先生に捕まっちゃって…」
顔は前を向いたまま、自分よりも後ろに向かって声を飛ばした。
思わず吐いてしまった嘘に罪悪感を感じながら。
幸い、声は震えていなかった。