春は来ないと、彼が言った。


「ああ、気にすんな。つーか、夏が来たな」



快活というには些か元気が足りなかったけど、落ち込んでいるような声音ではなかった。


それにほっとしながら、わたしも返事をする。



「ねー!蝉が鳴きだしてちょっとびっくりしたよ」



鞄から今日は使う予定のない教科書を数冊抜き取り机の中に戻す。

まだ残っていたプリントが、ぐしゃりと潰れた。


あっ、と口の形だけで呟き急いで入れたばかりの教科書を引き出す。



< 79 / 243 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop