春は来ないと、彼が言った。
「ああ、気にすんな。つーか、夏が来たな」
快活というには些か元気が足りなかったけど、落ち込んでいるような声音ではなかった。
それにほっとしながら、わたしも返事をする。
「ねー!蝉が鳴きだしてちょっとびっくりしたよ」
鞄から今日は使う予定のない教科書を数冊抜き取り机の中に戻す。
まだ残っていたプリントが、ぐしゃりと潰れた。
あっ、と口の形だけで呟き急いで入れたばかりの教科書を引き出す。