春は来ないと、彼が言った。
詳しく問われれば、そうなって欲しいという願望を込めた呟き。
うっとりと春待ち期に浸る世界は、なんだか非現実的で心地良い。
……あれ。
そのまま無言でいくら待っても恢からの返事はない。
もしかして寝ちゃったの?
「恢?」
支度を整える手を止め、わたしは身体ごと振り向いた。
ガタァァァンッ!!!!
瞬きをすることも、呼吸すらも忘れて、わたしは目を見開いたまま固まった。
…どう…して……?