春は来ないと、彼が言った。
さっきまでゆったりと構えていた恢が、誰のかわからない椅子を蹴飛ばしていた。
相当強く蹴られたらしく教室の真ん中までの椅子がなくなっている。
巻き込まれた椅子もろとも、ぐったりと床に横たわっていた。
「………恢…?」
返事はない。
ただ、荒く乱れた―――昂ぶる苛立ちを必死で抑えようとしているような、短い間隔の呼吸音が聞こえるだけ。
わたしは腰を抜かしたようにへたりと床に座り込み、恐る恐る恢を見上げた。