春は来ないと、彼が言った。
無言が怖かった。
声が聞けないと、まるで、目の前にいるのが恢じゃないみたいな気がして。
お願い、なにか喋って。
そう言葉にしたくても、声のだし方を忘れたように口をぱくぱくとさせるだけ。
俯いていた恢が顔を上げる。
目が合うのと同時に。
―――脳内で、けたたましく警報が鳴り響いた。
力の入らない足で立ち上がろうとしたとき、ふわりと風が頬を掠めた。
続いて、視界が黒で埋まる。
それに触れようと手を伸ばすよりずっと早く、身体が後ろに傾いた。
ドサッ!!