春は来ないと、彼が言った。


「……なに、言っ…」



絞り出したわたしのそれは、いつの間にか涙声になっていた。


なにが悲しいのかも、わからないのに。

漠然とした哀しみだけが胸の中にじわじわと広がって。


涙だけが、留め処もなく溢れる。



「っ!!…俺…」



正気を取り戻したように見開かれた恢の瞳には、薄く膜が張っていた。

わたしと同じ、涙の膜。


…どうして…そんな顔、してるの…?


ぎりりと恢の指が食い込んだ手首が、じんじんと疼く。



あつ、い。







「……………なんで、だよ」

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