春は来ないと、彼が言った。
やっと、普通に恢の声が聞けたと思ったのに。
「…………え?」
すぐ側にある恢の顔を見つめながら、わたしは混乱していた。
羞恥心はもうない。
それよりも、言葉の意味を図り兼ねて戸惑っていた。
だって…願い事ってつまり…。
春暁、待ち幸いのことだよね…?
「椛の願い事なんだろ?両想いになれますようにって」
「っ!!」
どうして…、どうして恢がそれを知ってるの!?
睦くんが話したの?
なんで?
なんで?
何度もパチパチと瞬きを繰り返す。
…あれ、なんでだろ。
蝉の鳴き声が、さっきよりも遠い。
「そんなに好きなんだな―――――睦が」