春は来ないと、彼が言った。
なにを、言ってるの?
「っ……」
声がでない。
…今度のは恐怖からじゃない。
頭の中がごちゃごちゃになって、言葉が見つからないから。
だって、だって、どうして睦くんの名前がでてくるの?
「………椛」
掠れた声でわたしの名前を呼んだ恢の顔が、だんだん近付いてくる。
もともと近かった距離がさらに縮まり、息遣いさえも聞こえてきた。
するり。
手首をこれでもかと押さえつけていた手が離れた。