春は来ないと、彼が言った。


…なのに力が入らない。


ぴくりとも動かなくて、自分の身体じゃないみたい。



「…っぁう…」



唯一自由に動く眼球を動かすと視線が絡み合った。


…冷たくなんかない。

熱に浮かされたみたいに、潤んだ瞳をしてる。


その恢がまっすぐ、わたしを見ていた。



わたし、だけを。



あんなに望んでいたことなのに、優越感は微塵もない。










「…………ん…」



恢の、甘い声がした。


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