春は来ないと、彼が言った。
「…ゃ……やだぁああっ!!!!!!」
ドンッ!!
気が付くと、両手でめいいっぱい恢の胸を押し返していた。
自分の身体のどこにそんな力があったのかと驚くくらい、強い力で。
ハッとして顔を上げると、恢は目を見開いて固まっていた。
今まで見たことがない、ひどく傷付いた表情で。
「…悪ぃ、こんなことして睦に勘違いされたら困るよな」
「ち、違っ…!」
ふらりと立ち上がると、恢は乱暴に鞄を引っ掴んで歩き出した。