春は来ないと、彼が言った。
扉の前まで行くと、恢の足がぴたりと止まった。
「恢っ…!」
期待を込めてその後ろ姿に声をかけた。
恢がわかってくれたんだとばかりに、わたしは思っていたから。
一切、疑うこともせず。
「………………かい…?」
そんなのは勝手に抱いた幻想や妄想だと嫌でも思い知らされる。
首だけで振り向いた恢は、眉を下げて苦しそうな表情をしていた。
その瞳はまた冷たさをいっそう誇示している。
まるで。
まるで、そう。
最愛の恋人に裏切られた絶望に押し潰され、歪んでしまった顔のように。