Cold Phantom [後編]

四章第二話 隣町の噂

※※

荒れ狂うような唸り声をあげてエンジンを回す大型バスが小高い山の道路を走行していた。

私は窓を眺めながら過ぎ去る木々をただ眺めていた。

私達の住む槍倉も日本市国の南方に位置するかなりの田舎に分類される町だが、流石にここまで緑が続く訳ではない。

そんな風景に私は外国がすぐそこまで近づいているのだと実感する。

「国境近いからみんなパスポート出しとけよ。」

湯川君の指示にしたがい、鞄から簡易パスポートを取り出した。

パスポート自体使うのは久しぶりだ。

以前使ったのは長池先生に行くように言われて言った精神医学病院に行くために他国の鼓辺(くべ)市へ行った時以来か…

鼓辺は日本市国から北に少し言った場所にある大きな港街だ。

かつては更に規模がある都市開発の進んだ港街だったようだが、それらは先の大戦で消失し、当時を知る人からは「見る影もない。」と言われているほどらしい。

今でも十分な規模なのに、それ以上は私には想像がつかなかった。

ちなみに、戦前の鼓辺市は「神戸市」と呼ばれていたようだ。

私達が住んでいる日本市国最南端の槍蔵市もまた戦前は「河内長野市」と呼ばれていた。
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